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第二十話 逃がさない――尾行の先は

last update Veröffentlichungsdatum: 09.07.2026 21:37:38

 琥珀はあの桜庭直哉と対峙しなければならない。一瞬、自分が対等に会話することができるのか不安になった。しかし自分を頼ってくれた凜華の気持ちが嬉しくて、守りたいと思う存在が目の前にいる。

「わかりました」

 返事は決まっていた。

 琥珀は帰る際に、凜華へ三万円の現金を強引に手渡す。

「今、手持ちが少なくて。今度また持ってきます」

「でも、こんなことまで」

 給料を凍結され、凜華はかなり経済的に追い詰められている。

「良いんです。凜華さんには昔お世話になったので。これでも返しきれませんよ」

 ベッドに寝ている日葵に向かい

「またね。日葵ちゃん」

 ふわっと日葵の顔を撫で、琥珀は出て行く。

 凜華は情けなく、申し訳ないと感じながらも、現金を握りしめていた。

(琥珀くん。ありがとう。これで日葵に必要な物を買うことができるわ)

・・・・

 琥珀は桜庭直哉がいる病院へと足を運んでいた。

 自分も医師であることを告げ、直哉を呼び出すことに成功していたのだ。

 面会室に通される。

(これが桜庭直哉か……)

 直哉を目の前に足がすくんでしまいそうだった。漆黒のスーツに身を包み、表情一つ変えない男。

 
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  • 私を刑務所へ送り込んだ夫が、今さら執着するなんて   第四十四話 現れた不審な男

    「患者情報にないだと!?」 休日だった直哉は、自宅書斎にいた。 確認しなければならない書類を持っていた直哉だったが、その手が止まる。「はい。運ばれそうな周囲の病院を十か所調べましたが。情報にありません」(いや、こんなことができるのは……)「宗像涼真のいる病院を調べろ。あの病院には、仁王もいるんだろう? あいつらが関わっている可能性が高い」「宗像涼真氏がいる病院も調べましたが、情報にはなく……」「情報に載せないよう、病院内部に指示を出しているはずだ。あいつの力ならできるだろう」 院長及び経営者としてカルテを隠している可能性もある。 偽名で入院させていることも考えられる。 凜華の保険料が滞納されているとしたら、自費診療にもなる。 さまざまな可能性を考えても、凜華がそこにかくまわれている確率が高いと直哉は考えた。「かしこまりました。内部から調べてみます」 使用人は深く頭を下げ、書斎から出て行く。「くそ。使えない奴ばかりだ」 ドンっと直哉は机を叩く。「俺から逃げて、幸せになれるなんて思うなよ」・・・「うーー。あーー」「日葵、会いたかった!」 凜華は変わらず入院をしていたが、快方に向かっていた。 ゆっくりではあるが、身体を動かすこともできる。 血液検査の結果、値も正常値に近いものになったため、久しぶりにわが子、日葵と会えることになった。「良かったですね」 日葵を連れてきたのは、今凜華から一番信頼をされている琥珀だ。 短時間であれば、病室の中に連れてきて良いという許可が涼真から下りた。「きゃっ、きゃっ」 日葵は久しぶりの母親に抱かれ、嬉しそうに声をあげている。「ごめんね。日葵、ダメなママで……」 凜華は感情が高ぶり、涙を流す。(私が健康的な身体だったら、日葵とずっと一緒に居ることができたのに)「凜華さんのせいじゃないですよ。自分を責めないでください」 日葵を抱きかかえている凜華の背中を優しく琥珀が擦っていた。「日葵ちゃんも元気そうで良かった。きちんとした専門職がいるベビーホテルです。それに、宗像先生が圧をかけているので、さらにしっかりとした体制で見てくれているみたいですよ」(宗像涼真が……? 日葵を気にしてくれているというの?)「宗像先生とは一時険悪な雰囲気になりましたが、仕事上では普通に接してくれます。さ

  • 私を刑務所へ送り込んだ夫が、今さら執着するなんて   第四十三話 思い出した新婚当初。凜華に気持ちはないはずなのにーー。

     その日、直哉は帰宅をすると、珍しく書斎に入ることなく、食事と入浴を済ませ、寝室のベッドへ横になっていた。 キングサイズのベッドの広さは、直哉の中で何か物足りなさを感じさせる。(このベッドで凜華と寝ていたなんて、考えられない) となりにいるはずのない凜華の面影を感じ、手を伸ばす。(眠れない夜に何度か寝返りを打つと、凜華はすぐに声をかけてくれた) 凜華との新婚当初、直哉は仕事のストレスや重圧もあり、眠れない日々を送っていた。 そんな直哉の様子に薄々気づいていた凜華は、眠れるようにホットミルクや白湯、カモミールティーを直哉の気分に合わせて毎日のように作り、直哉が少しでも休めるように寄り添っていた。(なぜ今、あの時のことを思い出すのだろう)(夫婦生活は破綻していた。凜華になんて気持ちはなかったはず)(今だって心の底から凜華のことを恨んでいる。会社の情報を盗むなど許せるはずがない……) 恨み、辛み、寂しさ、どうしようもない感情が溢れてくる。 直哉は凜華について調べられた資料を読み、しばらく動揺を隠しきれなかった。(宗像に仁王。あの二人が凜華の援助者となっている。その情報は今でも疑わしい)(結局、知りたかった当時の事件の情報は変わらぬまま。刑務所の中の凜華の様子もあの子どもの正体も不明のままとは、腕の良い情報屋ではなかった) 直哉が得られた情報、それは凜華がホテル従業員として社員寮で寝泊まりしながら生活していること、凜華のことを援助している男が二人いるということだけだった。 凜華の顔の傷、凜華が抱いていた乳幼児は誰なのか……。 一番知りたかった項目が記載されていない。 不明と処理されていることに腹を立てた直哉は、違う情報屋に依頼することにした。「不明で終わらせるわけがない」 尾灯の部屋で一人、ベッドの天井を見つめながら直哉が呟く。 あんなに愛おしく可愛らしいと感じていた、凜華の妹の唯衣であっても、今は心が躍らない。 霞がかかったような心の中は、直哉自身も経験したことがない。「くそっ!」 目を閉じると、凜華、直哉、琥珀の顔が浮かび、心は穏やかではいられなかった。「直接、あの女に聞いた方が早いか」 住んでいるところは知っている。 調査報告の中でもまだ引っ越しはしていないようだった。 次の日――。 直哉は凜華に会うために凜華

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